ミニ四駆のコーナリング安定度〜支持点と重心位置、転倒モーメントと安定モーメント〜

機械力学
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こんにちは。ジェノンです。

前回の記事からかなり更新が遅れてしまい、失礼致しました。
少しずつですが、また頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。

前回は車やミニ四駆がコーナリング中にどこにどういう力が働くかを解説しました。

今回は、コーナリング中の安定度について解説します。

よろしくお願いします。

この記事について

この記事で分かること

  • ミニ四駆のコーナリングでコースアウトする条件。
  • ミニ四駆がコーナリングで安定するためのローラーの配置。

対象:中学生・高校生以上

この記事の結論

  • ミニ四駆がコーナリングで安定するかどうかは、第一に、ローラーの配置とマシンの重心位置が重要。
  • ローラーの配置が悪い場合でも、重心位置とマシンに働く力によっては安定し得る。

前回のおさらい

前回の記事では、コーナリング中のマシンに、どの部分にどのような力が働くかを考えました。

結果、

  • 物体が曲線的に運動の向きを変える時、曲がっている円弧の中心方向に力が与えられている。
  • 各部品の質量毎に力が発生するが、マシン全体としては、マシン全体の重心位置に力が働くと見なせる。
  • コーナリングを円運動と捉えると、マシンは向心力として、コーナー内側に向かって力を受けている。
  • 逆にコースから見ると、マシンはコーナー外側に向かって、向心力と(ほぼ)同じ大きさを与えようとしている。

このような内容でした。

コーナリング中の安定度

コーナリングでコースアウトするのはどういう時か

さて、コーナリングでコースアウトしないためにどうすれば良いかを考えますが、その前にそもそもどういう状態になるとコースアウトするかを考えてみます。

皆さんは、一度はコーナリングでコースアウトする様子を見た事あると思うので何となく想像できると思いますが、コーナリング中にマシンが傾くと(転倒すると)、コースアウトします。

なので、今回考える事は、コーナリング中にマシンが転倒しないようにする方法です。

ローラーの配置と重心位置

先に結論を言ってしまいます。

コーナー外側にあるローラーでマシンを支える事になりますが、そのコースフェンスに接触しているローラーを線で結んで、その枠内にマシン重心位置が収まっていれば、転倒しません。
つまり、コーナーでコースアウトしません。

図を見た方が分かりやすいと思いますので、今回は簡単な手描きながら、図を使って説明しようと思います。

マシンを後ろから見た図です。

今、右曲がりのコーナリング中です。
この時、マシンは直進しようとしますが、ローラーがフェンスに当たって、マシンがフェンスに左向きの力を与える一方、反作用としてフェンスから右向きに力を受けて、コーナーを曲がっています。
この図では書かれていませんが、分かりやすくするために、フロントとリヤ共に同じように上下二段にローラーを配置していると考えてください。

※従来ミニ四駆はローラーの数は6個までだったのですが、現在ではローラーの個数に制限が無くなったようですね。小学生の頃(レッツ&ゴー世代)からミニ四駆をしている私としては、それだけでもとても驚きです。

この状態で、重心位置に力が働いていますが、マシンは転倒するでしょうか。
結論を言うと、転倒しません。
なぜなら、力が働いている場所は、ローラーとローラーの間にあります。
ローラーを支えているステーの強度があるなら、お互いのローラーで支えられているので、転倒しません。
この向きだと分かりづらいかもしれませんが、90°向きを変えて図のような台の上に立ったと思うと、納得できるでしょうか。

と言うわけで、コーナリングでコースアウトしないためには、ローラーを上下に配置する事がとても重要です。

次に、マシンを横から見た状態も見ておきましょう。

通常図のように、ローラーは前後に取り付けると思います。
今回はフロントは1段、リヤは二段配置しました。
これらのローラーを、線で結んだ範囲の中に、マシン重心位置があります。
この状態が、安定する条件です。
先ほどの台に例えると、3本脚のイスの中心に座っても倒れないのと同じ状況です。

ここで、とても重要な注意があります。

次の図の状態は、安定していると言えるでしょうか。

この図は、フロント、リヤに加え、ウイング位置にステーを取り付けた状態です。
ウイング位置にローラを取り付ける事を、ハイマウントと呼ぶ事にします。
昔(レッツ&ゴー時代)はこの位置、比較的多かったですよね。登場いくつか発行されていたミニ四駆に関する本でも、ハイマウントにローラーを取り付けたセッティング例が多くありました。
この状態も、横から見ると、ローラー同士を結んだ線の範囲内に重心位置があるので、安定しそうに思います。
しかし、実際は「安定しているとは言えない」です。

今度は上から見た図を見てください。

こちらも同じく、右コーナーを曲がっています。
ローラーはフロント、リヤ、ハイマウントです。
ローラーの幅は、全て同じに揃えていました。
しかし、右コーナー中には、ハイマウントのローラーが当たっていません。
これはフェンスが曲がっているため、フロントとリヤのローラーがフェンスに当たっている状態では、ハイマウントローラーから見るとフェンスが左側に離れてしまうためです。
この状況は、コーナー曲率が小さい程(キツイコーナー程)、ハイマウントローラーはフェンスから離れてしまいます。
結果、コーナー中はフロントとリヤのみ当たっているので、横から見た図ではハイマウントを無視した二つのローラーの線を結ぶのみとなり、安定しない事が分かります。
なお、ハイマウントローラーがフェンスに当たるように調整すれば、3点で結べますが、コーナ曲率でハイマウントローラーの位置を変える必要があるため、周回中にハイマウントローラーの位置を変える事が出来なければ、結局ハイマウントローラーをフェンスに当てる事が出来ないコーナーが必ずある事になります。

と言うわけで、コーナリングを安定させるためには、フロント1段・リヤ2段、又はフロント2段、リヤ1段の構成が基本です。
ちなみに、リヤを0個にして、ハイマウントを2段にすれば、ハイマウントがリヤと同じ働きをする事はできます。
しかし、ハイマウントはステーの位置が高いので、2段にすることは難しいですし、重心がローラーを結ぶ線の中に入れようとすると、もっと難しいです。
なので、ローラーはフロントとリヤに配置するのが基本になるのです。

転倒モーメントと安定モーメント

ここまで、マシンが転倒するのを防ぐようなローラーの配置が大事である事を書いてきました。
しかし、これだけでは説明できていない、コースアウトするかどうかの状態があります。
それは、例えばキット付属のパーツのみで組み立てた時、いわゆるノーマル状態の時です。
ノーマル状態のマシンは、エアロミニ四駆やMAシャーシ付属のミニ四駆PROシリーズなどは、リヤステーの上下にローラーを取り付けられるのですが、他のミニ四駆はフロントとリヤに1段ずつしかローラーが付属されていません。
これまでの説明では、コーナーでマシンを支えられるようなローラーの配置ではないため、コースアウトしそうです。

しかし、実際にノーマルの状態で走らせた人は多いと思いますが、スピードが控えめのモーターで走らせると、コースアウトしません。
逆にモーターやギヤなどの組み合わせで、スピードが速くなると、コースアウトします。
コースアウトするからこそ、皆さんマシンをセッティングするんですよね。
ではなぜ、ローラーの配置はマシンを支えられなさそうなのに、速度によってコースアウトしたりしなかったりするのでしょうか。
それを解説したいと思います。

もう一度マシンを後ろから見た図を見てみましょう。
右コーナーでは、マシンは左向きに倒れようとするのでしたね。
そしてコーナリング中のマシンは、ローラーで支えられています。
この時、「転倒しようとする回転力」がどれだけあるかを考えます。
実は回転力はこれまでの記事に何度も出てきています。
回転力M、物体に働く力F、支持点から物体に力が働いている位置までの直角距離Lとすると、

M=F×L

これは、小学校の理科で言う、テコの原理と捉えても良いです。
高校以降の物理学では、物体に働く回転力をモーメントと呼びますが、今コーナリング中のマシンを転倒させようとするモーメントを、「転倒モーメント」と呼ぶ事にします。
この転倒モーメントは、マシンを反時計回りに回転させようとする向きであることに注意してください。
このMによって、マシンは転倒しようとします。

しかし、マシンにはもう一つ、回転させようとする力が働きます。
それが、転倒させないためのモーメント、「安定モーメント」と呼ぶものです。
先程の図に戻ります。

マシンには左向きの力が働いているのですが、実はもう一つの向きにも働いています。
それが、重力による下向きの力です。
先程の転倒モーメントによって、ほんの僅かに右側のタイヤがコースから浮き上がったとしましょう。
この時、重力により重心位置に下向きに力が働きますが、ここでも支点と力が離れているので、回転力を発生します。
この大きさも、先程の式と同じく表現できます。
記号を変えて、安定モーメントMs、重力による力Fs、支持点(ここでは左タイヤ)から重心までの距離Lsとすると、

Ms=Fs×Ls

となります。
この安定モーメントは、転倒モーメントとは逆方向の、マシンを時計回りに回転させようとする向きであることに注意してください。

以上のように、右方向へのコーナリング中は、マシンが反時計回りに回ろうとする転倒モーメントと、時計回りに回ろうとする安定モーメントが働きます。
ここで、転倒モーメント>安定モーメントであれば、マシンは転倒し、転倒モーメント<安定モーメントであれば、マシンは転倒しません。

ここで重力による下向きの力Fsは、マシンの質量m、重力加速度g(9.80665m/s^2)とすると、

Fs=m×g

となり、速度に関係しません。
一方転倒モーメントの力Fは、速度が大きくなるほどFが大きくなっていくのでしたね。
よって、ノーマルマシンは、ゆっくり走っているとコースアウトしないが、速度が速くなるとコースアウトする、と言うことになります。

ちなみに、これまでの解説を読んで、「もし転倒モーメントを、安定モーメントと同じ向きにする事ができれば、めちゃくちゃ安定するんじゃね…?」と考えた方、いますか?
実は転倒モーメントを安定モーメントと同じ向き、ここでは時計回りにする事は、可能です。
その方法は、ローラーを高い位置にのみ取り付ける事です。
重心よりも高い位置にローラーがあれば、ローラーを支点に回転する転倒モーメントは、向きが反対になります。
ではローラーを高い位置にのみ取り付ければコースアウトしないかと言うと、残念ながら実際にはコースアウトします。
これは私の実体験なのですが、コーナリング重視マシンを作ろうと思って、同じように安定させるためにローラーの取り付け位置を高くしたセッティングをしたことがあります。
安定したコーナリングをしてくれる事を期待したのですが、実際にはなんて事の無いコーナリングでもコースアウトする場合がありました。
しかも、そのコースアウトの仕方が、これまでのコーナー外側に転倒するのとは違うコースアウトの仕方だったので、初めはとても不思議でした。
しかし、コースアウトする様子を何度もよく見て、ようやく分かりました。
高い位置にのみローラーを取り付けていると、タイヤがローラーの下に回り込むように力を受け、時計回りに転倒する事で壁走りに近い状態になり、そのままコースアウトしていたのです。
初めてそのコースアウトの様子を見た時は、とても不思議でした。

まとめ

  • ミニ四駆がコーナリングで安定するかどうかは、第一に、ローラーの配置とマシンの重心位置が重要。
  • ローラーの配置が悪い場合でも、重心位置とマシンに働く力によっては安定し得る。

以上、コーナリングでの安定度について解説しました。

ご参考になれば幸いです。

さて、車やミニ四駆を題材にした物理学も引き続き書いてくつもりですが、車のブログでもあるため、今後は物理学に関わらず、単純な車やバイクの記事も書けたら良いなと思っています。

今後ともよろしくお願いします。

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